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執筆者の写真コスタリカ社会科学研究所

2023年8月〜9月コスタリカ訪問記 その6:なまけものの通りみち(2)

更新日:2023年12月18日

・8月30日

 午前4時半起床。

 まだ暗い5時に駐車場から車を出し、再びカリブ海方面へ。

 サンホセの市街地を出る頃に、ようやく空が明るんできました。



 標高約1100mのサンホセから二千数百メートル級の山道を北に登り、太平洋側と大西洋(カリブ海)側の分水嶺を越えて、カリブ海側の海抜0m地帯まで一気に下っていきます。



 到着は朝8時前。

 辺りは雲が広がり、怪しげな空模様。

 しばらく待っていると、環境エネルギー省(MINAE)の組織である国家保全区域庁(SINAC)トルトゥゲーロ保全区(ACTo)担当官、ノルダン・チァバリア氏がSINACの制服姿で到着しました。



 到着と同時に、熱帯雨林特有の激しいスコールが、東家のトタン屋根を激しく叩き始めます。会話するのも難しい環境の中、なんとか言葉をつないで、こちらが疑問に思っていることを、システムの話を中心に尋ねていきます。豪雨の中、音声環境的に双方聞き取りづらいこともあって、話が噛み合わない部分もありましたが、なんとかコスタリカの生物多様性保全に関する制度の根幹について理解することができました。


 これで、私たちの「けもみち」が、コスタリカという国の国家政策の中にどのように位置付けられ、私たち(たとえば農園主のクリスティアン、外部団体である私たち一般社団法人コスタリカ社会科学研究所など)が制度の中でどのようなアクターとして扱われるのか、ようやく理解することができました。

 アクターとしての自分(たち)の立ち位置を理解していなければ、プロジェクトにネガティブな影響を与えてしまう可能性がありますし、逆に理解していれば、システムをうまく活用してプロジェクトの質を一層高めることができます。


 チャバリア氏によると、話はこうです。

 まず、SINACは国土をエコシステムによって11の保全区に分割しました。下載地図上で青い線で区切られている各地域がそれです。

 その中で、私たちの「けもみち」がある場所は、「トルトゥゲーロ保全区」と呼ばれます。地図の右上、ACToと書いてある場所です。



 各保全区の中で、空色で示された部分が国立公園及び自然保護区などを示しています。この中では厳格な自然保護・生物多様性保護政策が採られ、人間の活動は禁止もしくは厳しい制限を受けます。つまり、基本的に「人類以外の野生動植物やエコシステムが優先する地域」です。

 以前までは、国立公園や指定された保護区以外は「人間活動が独占的優先権を有する地域」だったのですが、生物回廊という概念と制度の導入により、両者の緩衝地帯(バッファゾーン)を策定することが政府によって決められました。それが、地図上で薄緑色で示され、番号が振られているているところです。

 この地図は2017年段階のもので、2021年現在、生物回廊は52ヶ所指定されています。私たちの「けもみち」がある場所はACToのトルトゥゲーロ国立公園およびバラ・デル・コロラド生物保護区に隣接する②の部分です。

 トラピチェ統合農園は、②のやや左上、小さな赤い点が打ってある場所にあります。


 毎日新聞2023年11月23日ウェブ版に現地の拡大地図が掲載されていたので、そちらも併せてご覧ください。


 チャバリア氏は、生物回廊をつくるアクターの重要性を説きます。国に所属するACToの管理官は57名ほどだそうです。35,000haもあるこの地域全体を管理するには少なすぎます。そこで、ローカルな人たちが主体的なアクターとして関わることが非常に重要になります。

 それは、一人ひとりの意識改革から始まります。そこでチャバリア氏は、環境教育担当官として地域の学校をめぐり、また子どもたちを現場に連れて行って、環境教育をおこなっています。

 国家保全区域庁(SINAC)はまた、地域住民に呼びかけて、自然資源監視委員会を招集します。一定条件をクリアした地域住民が委員へ立候補し、所定の進呈手続きを経てSINACから任命されます。任命された委員は、委員会全体としての活動の策定はもとより、名誉監視官として地域巡視活動や環境教育活動の補助も行います。彼らには、「プロモーター(推進者)を作るプロモーター」としての役割を期待しているとチャバリア氏は語ります。


 また、ACToは複数の自治体にまたがるので、さまざまな地域のひとたちが連携して関わらねばならない難しさもあります。その難しさはロス・サントス生物回廊でもホルヘ・セラーノ氏が強調していましたが、この地域はロス・サントスと違い、ケツァールのような明確な自然保護と経済をつなげるファクターの創出に欠けるため、比較的取り組みが遅れていると言っていいでしょう。そこで目をつけたのが、国を挙げて保護を進め、2021年には国のシンボルの動物ともなったナマケモノです。Raíces Para Siempreと名付けられた私たちのプロジェクトの日本語名を「なまけものの通りみち」としたのも、そこに大きな意味があるのです。


 さて、その私たち、つまり国を超えた関わりですが、生物回廊の策定に関してはSINACも大きな国際援助を得ています。生物回廊国家プロジェクトの策定に関する資金的及び技術的支援を、ドイツの援助機関であるGIZから得ており、それが全体的なプロジェクトのキックオフやその統括管理に大きく寄与しました。個別の生物回廊プロジェクトにおいても、GIZは前出のロス・サントス生物回廊を支援した実績があります。ただし、現在その支援は終了しているため、ロス・サントス地域においては新たな支援を模索しているところだとセラーノ氏は語っていました。

 ACToにおいては、トルトゥゲーロ国立公園において特定の民間団体がウミガメ保護に限った支援をしてきましたが、広域エコシステム全体や生物回廊に関する海外からの目立った支援はありません。ですから、この地域に対する対外援助は、ACToの生物多様性保全の促進において極めて重要な役割を果たします。


 私たちコスタリカ社会科学研究所がこの地域の生物回廊内にあるトラピチェ統合農園を支援することは、地域全体の環境保護と人間の経済活動を両立させる総合的取り組みの端緒となり得ます。そこからさらに一歩進んで、周囲に生物回廊運動を拡大させていくのが、私たち研究所やトラピチェ統合農園のみならず、SINACまで含めて全員が共有する目標です。私たちがトラピチェ統合農園を支援し、「けもみち」プロジェクトを成功させることでロールモデル化し、他の農園も同じモデルを志向するようになれば、地域全体が生物回廊農園創設に舵を切ることができます。とても小さな一歩ですが、そこに皆さんのご支援があれば、この地域を大きく変えることができるのです。


 チャバリア氏は、スペインのある詩人の有名な詩の一説を引用しました。

Caminante, no hay camino, se hace el camino al andar.

「歩む人よ、道はないのだ、歩くことによって道ができるのだ」

セビージャ出身のアントニオ・マチャードの言葉です。


 彼はこう続けて、インタビューを締めました。


 「私たちはSINACとして、あなた方のプロジェクトを環境理念に対するとても大きな貢献であると評価しています。トラピチェ統合農園で実施されている”なまけものの通りみち”プロジェクトは、生物多様性を豊かにし、トルトゥゲーロ国立公園という非常に重要な地域に対する環境負荷を軽減しています。多くの野生生物種がより広い範囲に到達でき、安心して過ごせ、皆が環境と調和して暮らせるからです。コスタリカ社会科学研究所の呼びかけに加わり、このプロジェクトに寄与していただくよう、日本のみなさんにも呼びかけます。なぜなら、このプロジェクトは、この農園にとってだけでなく、コスタリカにとってだけでもなく、地球全体にとっても極めて重要だからです。私たち一人ひとりがひとつの”突破口”であり、命の重要な軸となります。私たちがここでやっていることは、地球全体を良い方向に導こうとする営みなのです」


 現地の公的機関にも評価されていることが確認できて、私たちも嬉しい限りです。

 あらためて、皆様のご支援をお願いいたします!



 チャバリアさん、お忙しい中朝からお時間をとっていただいて、予定時間を大幅にオーバーしてまで熱量のこもったお話を聞かせていただき、本当にありがとうございました!


 インタビュー終了後、支援者の皆様への月例報告用写真を撮影します。

 100本以上の木の写真を撮るだけでも意識が遠くなりそうになるほど強力な熱帯の日差しの中、木々と森の成長を確認していきました。


 一年半前、植樹を始めた時はこれだけ開けた土地でした。



 それからわずか1年半、現在の同じ場所はこれだけの緑の木々に覆われるまでに変貌しました。



 画角が少々違いますが、同じ看板が立っているのが分かると思います。

 ちなみに最も高く育っているのは、さらにその後植えられたバナナです。若木の段階では強い直射日光を浴び続けるのはかえって成長阻害要因になるので、日除けのために植えられました(もちろん収穫もします)。そのため、今では日向と日陰のいいバランスを保てています。


 おかげさまで皆様に里親になっている木々も予想以上の成長をみせており、私たち研究所のコショウにも、早速初年度の実がなっているのを確認することができました。



 バニラやコショウをからませているポロの木やカカオはまだまだ若木で枝も細いため、ナマケモノがやってくるほどの大きさには成長していませんが、この分なら近いうちに彼らが私たちの「けもみち」に遊びにくる日も近いのではないでしょうか。とてもワクワクしますね!



 「けもみち」につながる森の散策路で、この日もナマケモノを見ることができました。

 おそらくエドウィナの子、ココだと思われます。



 最後に、クリスティアンから皆様へのメッセージです。



 農園3日目は暗くなる前にサンホセに帰り着くため、若干早めにお別れしました。

 というわけで、まだ明るいうちの定点観測を、今回は動画で。



 翌日はまた別の形の生物回廊に関して調査の予定が入っています。

 生物回廊をめぐる旅、まだまだ続きます。

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