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執筆者の写真コスタリカ社会科学研究所

「けもみち」発案者を追悼する

更新日:5月14日

 去る5月、「なまけものの通りみち」の実質的発案者である阿部真寿美さんが、ご病気のためコスタリカにて他界されました。遅くなりましたが、謹んでご冥福をお祈り申し上げます。


(画面左から弊所代表理事足立、トラピチェ統合農園アギラール一家、阿部さん夫妻)

 一般社団法人コスタリカ社会科学研究所が企画・運営する「なまけものの通りみち」(けもみち)は形上、当研究所の代表理事である足立力也が発起した形となっています。が、実のところ、その発案者は阿部さんでした。けもみちのプロジェクトを実施しているトラピチェ統合農園を足立に紹介したのも阿部さんです。


 話を聞いた足立は数年前から当農園を幾度か訪れ、足立がガイド・通訳を務めるコスタリカツアーでもお客様をお連れするようになりました。その中で、当農園が生物回廊のコンセプトに基づいた農園を作ろうとしていること、農作物市場に左右される中での生物回廊農園の経営は困難を極めることなどの課題が浮かび上がりました。それを解決する策として「ここに植える木の里親を日本から募集する」というアイデアを出したのが、ほかでもない阿部さんだったのです。


 2021年9月、阿部さんご夫妻と私は当農園を訪れ、農園主のクリスティアン・アギラールさんとともに、そのアイデアの実現に向けた話し合いを行いました。その結果、ぜひともやってみようという合意に至り、現場の管理をトラピチェ統合農園が、企画・運営の責任を当研究所が受け持ち、阿部さんは陰のコーディネーター役となるという形でプロジェクトがスタートすることになりました。阿部さんは当研究所と現地農園との間で媒介役となり、課題発生時にはトラブルシューティングもこなしつつ連絡調整を行うなど、本プロジェクトの扇の要となる存在であり続けました。


 そもそも、足立の阿部さんとのお付き合いは、足立自身がコスタリカで生活していた2000年に遡ります。通訳のお仕事でご一緒させていただいたことをきっかけに、人生を通じた交流が始まりました。ビジネス・パートナーとして、研究仲間として、何より友人として、20年以上のお付き合いが続いていました。日本随一のコスタリカ研究家と称される足立にとっては、日本人とコスタリカ人の双方の価値観を生活者としても研究者としても共有した状態で、現地感覚をいつもフィードバックしてくれる阿部さんは、自らの半身に等しい存在でした。最低年一回は欠かさず行うコスタリカへの調査研究旅行時にも、幅広く奥行きの深いコーディネートや的を射たアドバイスなどを提供していただき、その度にその有能な仕事ぶりに助けられてばかりでした。コスタリカ研究者としての足立の存在は、阿部さんなしには決して成り立たないものだったのです。


 阿部さんは、多数の重要な日本からのコスタリカ案件を依頼され、捌く存在でもありました。今の日本におけるコスタリカの知名度の高さには、阿部さんが極めて大きな貢献を果たしています。彼女は表に名前や顔を出すことはほとんどなかったため、その存在は日本では完全に無名ですが、彼女こそがコスタリカと日本を結ぶ最も重要な架け橋のひとつであったことは、誰にも否定することはできないでしょう。


 そんな阿部さんが、コスタリカで最後の、かつ彼女にしては極めて珍しく独自プロジェクトの発案となったのが、この「けもみち」だったのです。自らの命を森に託す気持ちもあったのかもしれません。真意までは聞くことは叶いませんでしたが、いずれにしても自らのネームプレートが立てられた3種の木を植え、その成長ぶりに無邪気に驚いていたことを、まるで昨日のことのように思い出します。


(阿部さんが里親になっていたカカオの木。立派に育っています)

 「けもみち」が大きな森の農園となり、エドウィナ家族をはじめとするナマケモノたちがゆらゆらと揺られながら私たちが農作業をしたり、収穫物を食したり……。その夢のまだ端緒の段階で逝ってしまったことは、本人が一番悔しいでしょう。なぜなら、これは彼女の仕事の大半を占めた「依頼案件」ではなく、数少ない「自らが発案した案件」だったからです。表に出ることを避けてきた阿部さんですが、「けもみち」植樹100本を達成したら開催するつもりだったオンラインイベントには参加する予定でした。それが叶わなくなったのは、阿部さんにとっても、私たちにとっても、ただひたすら残念でなりません。


「なまけものの通りみち」には、実はまったく違うスペイン語のプロジェクト名がついています。”Raíces Para Siempre”がそれです。スペイン語表現には、Amigos Para Siempre(永遠の友)という言葉があります。それになぞらえて、永遠の根(Raíces)と名付けたのです。日本とコスタリカという国を超えて、みんなで樹を植えて、共有する根をともにこの地にはろう、という願いを込めたものです。もちろん、その名付け親も阿部さんです。


 私たちは確かに、同じ夢を見ていました。彼女は旅立ってしまいましたが、その念いはしっかりと現地に根付いています。私たちは、彼女の、私の、そしてみんなの夢の根を、これからも広げていきます。今後ともこの「なまけものの通りみち」を、どうぞよろしくお願い申し上げます。


一般社団法人コスタリカ社会科学研究所

代表理事

足立力也

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