ベネズエラ危機を読み解く
- コスタリカ社会科学研究所

- 4 日前
- 読了時間: 7分
新年早々、物騒なニュースが飛び込んできました。
現地時間1月3日未明、米軍特殊部隊が南米ベネズエラの首都カラカスを急襲し、ニコラス・マドゥーロ大統領とその妻シリア・フローレス氏を拘束、米本国に連行しました。
マドゥーロ氏は、英語で「Good night, Happy New Year」と言う余裕を見せながら、ニューヨークの拘置所に連れていかれました。フローレス氏の状況は不明です。
これに対し、世界からは賛否両論、様々な反応が寄せられています。
なぜ賛否が分かれるのか、簡単に解説いたします。
米国の行動は国連憲章第2条第4項違反である
国連憲章はその第2条第4項で、「すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない。」と定めています。
今回の米国の軍事行動は、明らかにこの条項に反します。
そこで、米国に対する「否」の意見が現れます。
マドゥーロ氏は正当に選ばれた大統領ではなく、権力の簒奪者である
2024年、ベネズエラで行われた大統領選挙では、現職であるマドゥーロ氏の対立候補となったエドムンド・ゴンサレス氏が圧倒的な票を集めたとされています。しかしながら、同国選挙管理委員会はマドゥーロ氏の勝利を、明確な証拠なく認めました。ゴンサレス氏はスペインに亡命を余儀なくされて現在に至ります。そのため、多くの国がこの選挙結果を認めていません。不正な手段を用いて大統領職を得たマドゥーロ氏には、その正統性に強い疑問が投げかけられています。
そこで、米国に対する「賛」の意見が現れます。
では、この事態をどう読み解けば良いのでしょうか。
1および2それぞれの主張は、どちらも正当なものと捉えられます。つまり、マドゥーロ氏の権力は認められないが、かといって米国の力による排除もまた認められない、ということです。
明日にもニューヨークでマドゥーロ氏の裁判が始まると見られていますが、これはあくまで米国内法(麻薬犯罪)による事件という扱いです。それに対して、外国の領土において、しかも警察力ではなく軍事力によって被疑者を拘束することに、法的な根拠を見出すことはできません(警察力と軍事力の違いについては拙著「丸腰国家」第4章をご参照ください)。
そのため、「米国の行動もマドゥーロ氏の正統性も否定されるべきである」というのが、筋に沿った解になります。
ただし、物事は理想通りには動きません。
では、今後はどのように展開するのでしょうか。
米国の意図は、マドゥーロ政権の打倒と、それに代わる親米政権の樹立にあることは疑いようもありません。事実、トランプ大統領は記者会見で「適切な政権移行までは米国がベネズエラを「運営」(run)すると述べています。
しかし、この事態を受けて、ベネズエラでは憲法の規定に従い、デルシー・ロドリゲス副大統領がマドゥーロ氏の全権を受け継ぐ決定がなされています。マドゥーロ氏の物理的排除がそのままマドゥーロ体制の崩壊につながるわけではありません。つまり、この文脈では、米国の目的はまだ達成されていないことになります。
そのため、トランプ大統領は今回の作戦を「第一波」と述べ、「第二、第三の攻撃」があり得ることを示唆しています。そのため、今回の事態はマドゥーロ氏の確保で終わりではなく、いまだに高度な緊張状態にあります。
ですから、今後は、マドゥーロ氏の処遇より、ベネズエラ沖に展開している米軍の勢力がさらなる軍事行動に出るのか否かが焦点になります。それを左右する大きな要因となるのが、跡を継いだロドリゲス副大統領以下現ベネズエラ政権の動向です。
ロドリゲス副大統領は、「ベネズエラの唯一の大統領はマドゥーロ氏である」と表明し、米国の思惑を全面的に否定しています。一方、トランプ氏は今日の会見で、ロドリゲス副大統領に期待している旨発言し、内通を匂わせています。ただ、現時点ではそれがマドゥーロ派に対する揺さぶりである可能性も否定できません。
ベネズエラ憲法は、大統領が職務不能になった場合の規定として、「一時的な職務不能」の場合は1ヶ月間副大統領への暫定的な大統領権限移譲を、「恒久的職務不能」の場合は副大統領への大統領権限の完全移譲を定めています。今回、ベネズエラ最高裁判所は前者の立場を取り、「米国がマドゥーロ氏をベネズエラに送還する」ことを求めています。ロドリゲス氏が暫定的に率いる形となった現在のベネズエラ政府が「マドゥーロ政権はまだ続いている」というメッセージを明示した格好です。
これに対し、米国が応じる可能性はほぼゼロといっていいでしょう。そのため、今後の焦点は「ロドリゲス副大統領をはじめとするマドゥーロ派が米国に対してどこまで粘れるか」になると予想されます。
それを左右する大きな要因として、国際社会の反応が挙げられます。先にも述べたように、国によって賛否がわかれているのが現状です。もともと親ベネズエラ・反米気質が明らかなロシア、中国、北朝鮮、キューバ、ニカラグアなどは米国の国際法違反を一方的に非難していますが、いくつかの国はベネズエラの民主化に期待するという声明を出し、事実上今回の軍事作戦を容認しています。欧州各国は、米国の一方的な国際法無視の軍事作戦には苦言を呈しながらも、ベネズエラの民主化にも期待をするといった玉虫色の意見表明が目立ちます。
そんな中、一際米国の行動に強く釘を刺したのが、グテーレス国連事務総長です。「米国の軍事行動は地域に深刻な影響を与える可能性がある」という声明を発表し、危機感を示しました。国連では安全保障理事会も招集される予定ですが、米国自身が拒否権を持った常任理事国ですので、その場での解決は糸口すら見出せない可能性が大きいでしょう。
今後事態が行き詰まった場合、国連総会などで議論される可能性もありますが、その場での解決も困難が立ちはだかります。米国は、極端に言えば、自国内の「刑法」に基づいた権力の執行であるという立場を取っています。つまり、国際法の適用範囲外だというのが米国の主張です。しかしながら、今回の行動は明らかに国際的行動であり、国内法の適用範囲外です。その明確な証拠こそ、「軍事力の使用」です。国内法の適用であれば、軍事力ではなく警察力をもって事態に対処すべきですし、軍事力は「国内法(や場合によっては国際法)の範疇を超えて権力を物理的に行使する場合」に使うものだからです。
ここで、今回の事件に関する問題の要点が明らかになります。
それは、国際法の有効性です。
国際法を遵守する精神を貫けば、今回の米国の行動は国連憲章によって否定されるべきものです。
では、マドゥーロ氏の選挙不正に関してはどうでしょうか。
マドゥーロ氏は、自身の権力を認めない国内の諸運動体に対して物理的弾圧を加えています。これは国際人権法違反であり、米州内であれば米州人権裁判所で審理できる事象です。
こういった国際法が、国際社会の中でどこまで有効性を高められるのか?
それが、この事件が私たちに突きつけている課題だと言えます。
ですから、遠くに住む私たちがまずできることは、国際法の遵守を国家権力に強く求めていく、道理に沿った主張を展開することでしょう。
今回の米軍による軍事行動を認めると、ロシアのウクライナ侵攻も、イスラエルによるガザ地区での虐殺も、否定する根拠が失われてしまいます。逆に、いかなる場合でも国際法を遵守せねばならない国際環境が作られれば、自然と戦争や武力紛争は減っていかざるを得なくなるでしょう。
国際法の有効性の強化こそ、21世紀の人類が追求すべき課題だということが、今回の事件から浮かび上がってくるのです。
ちなみにトランプ氏は、米国の石油企業がベネズエラの石油を売ると述べ、ベネズエラの石油利権を獲得する意思も大っぴらに表明して、2003年のイラク侵略の時よりもあけっぴろげに自国の経済的利益を追求する姿を晒しています。軍事力で資源を獲得しようとするその姿勢は、21世紀の国際秩序を破壊し、植民地主義の時代に逆行するものです。今こそ、国際法に命を吹き込む時です。その先にこそ、世界平和は近づいて見えてくるでしょう。



コメント