激動のコスタリカ大統領・国政選挙!現地取材を振り返る
- コスタリカ社会科学研究所

- 2 時間前
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代表理事・足立力也は、1月22日深夜にコスタリカに入り、2月1日投開票の大統領・国会議員選挙を取材してきました。以下、その報告です。
◼️2026年選挙の結果
2026年2月1日、4年に1度の国政(大統領/副大統領・国会議員)選挙が行われました。以下、2月21日現在、開票率96.87%での数字を記します。
大統領選では、与党・人民主権党(Partido Pueblo Soberano=PPSO)のラウラ・フェルナンデス候補が大統領選挙で48.30%の票を獲得し、決選投票に進むことなく一回で当選を決めました。
最多得票者の得票率が40%を切ると行われる決選投票に持ち込みたかった野党は、国民解放党(Partido Liberación Nacional=PLN)のアルバロ・ラモス候補が健闘したものの得票率は33.44%にとどまり、第3位には市民アジェンダ連合(Coalición Agenda Ciudadana=CAC)から挑戦した元大統領夫人であるクラウディア・ドブレス氏は4.85%弱の得票、次いでフレンテ・アンプリオ(Frente Amplio=FA)のアリエル・ロブレス候補が3.76%を得票しました。
投票率は69.08%と、前回2022年の60.00%を大きく上回り、約9%の増加を記録しました。

選挙最終週に開かれた公開テレビ討論会で論戦を繰り広げるPPSOのフェルナンデス氏(右)とドブレス氏(左)
国会議員選挙でも、同じくPPSOが31議席を獲得し、全57議席のうちの過半数を占める勝利となりました。野党第一党はPLNで17議席、第二党はFAで7議席、さらには伝統的政党(Partido Tradicional)である社会キリスト教連合党(Partido Unión Social Cristiana=PUSC)と2014〜2022年まで8年間与党だった市民連合党(Partido Acción CIudadana=PAC)の後継となるCACがそれぞれ1議席を獲得しました。
国会議員選挙の投票率は現時点で72.11%となっています。
(出典:選挙最高裁判所公式サイト)
※なお、議席は未確定であり、最終確定はしていないため変動する可能性があります。

首都サンホセ市中心部の大通り、パセオ・コロンに集結するPPSO支持者たち。中央のベストにジーンズ姿の男性は選挙最高裁判所の監視員。
◼️2026年選挙の特徴
今回の選挙は、現大統領のロドリゴ・チャベス政権を継承するか否かが問われました。結果は継承を主張したフェルナンデス氏と同氏が所属するPPSOの完全勝利でした。
選挙の最大の争点は、ここ数年で急激に悪化した治安対策でした。チャベス政権は、世界最悪とも言われた殺人率を強権的な手法で劇的に改善させたエルサルバドルのブケレ大統領にならい、「メガ刑務所」の設立などを進めてきました。投票日の直前、その刑務所の起工式にブケレ氏を招聘し、礎石設置などの行事を強行しようとしました。これは、現職の大統領による外国の首脳を利用した選挙キャンペーンだという強い批判を浴びました。しかし「メガ刑務所」建設は多くの大衆の支持を受け、結局、ブケレ氏は来訪して起工式が行われました。
また、チャベス氏は立法府や司法府、会計検査院などの行政機関と逐一対立し、戦いを仕掛け続けてきました。それを「旧態依然とした古い体制に対する改革」姿勢と受け取った層がフェルナンデス氏に投票しています。加えて、政府の債務を減らしたことで、チャベス氏の元世界銀行総裁というエコノミストとしての一面を評価した人たちもいます。
対する野党は、チャベス政権の強硬な治安対策はコスタリカの価値観と合わないこと、そもそもチャベス政権時に麻薬組織、麻薬検挙量、殺人件数などが歴史的上昇を示したことで、チャベス的手法は失敗しているという見方を広めました。実際、それらの数値は過去最高を記録し、それに対してチャベス政権は沿岸警備隊を増派するどころか撤退させるなど、矛盾した政策を取ってきました。それに対する強い批判があったことも事実です。
また、緊縮財政は、医療や教育の現場の逼迫を生みました。医療機関に並ぶ列は以前よりはるかに長くなり、待ち時間も大幅に増加しています。教育現場の予算不足も深刻です。重厚な教育・社会福祉国家として歩んできた現代コスタリカの潮流を押し戻すのが、チャベス流の「改革」でした。これに対しても、野党は厳しく追及しました。

サン・フアン・デ・ディオス国立病院の入り口に長蛇の列をつくる患者たち
さらに、立法府や司法府、会計検査院などとの対立は、権力を分散させて行政府を厳しくチェックする従来のコスタリカ的制度に対する挑戦でもありました。チャベス政権は、行政府により多くの権限を集中させようとして、立法府や司法府、会計検査院などから大きな反発を受け、違憲判決まで出ています。野党はこの姿勢を「国の形を壊すもの」だとして激しく非難しましたが、逆にそれを「改革」だと受け止めた有権者の方が多かったため、フェルナンデス氏及びPPSOの完全勝利という結果に終わったものと見ていいでしょう。
また、ここ数回低迷し続けてきた投票率が約20年ぶりに上昇したことが、今回の選挙における特徴のひとつとして挙げられます。これは、既存の政治に辟易した層の少なからぬ人数が、チャベス大統領やその継続を訴えるフェルナンデス氏への支持に回ったことを示しています。ちなみに、現地の移動手段として数回Uberを利用し、その度に投票するかしないか、するのなら誰にするつもりなのかを可能な限り運転手に尋ねてみました。すると選挙権がないニカラグア人ドライバー1人を除いたすべての人がフェルナンデス氏に投票するという返答でした。なるほど、このクラスの労働者に浸透しているんだな、という印象を受けました。一方で、与党・フェルナンデス氏を支持する人たちに対して、各野党支持者は危機感を持って非難し、下のようなAI生成画像も出回るほどでした。

選挙期間に出回っていた、与党支持者を表すAI生成画像。この場所は1989年、選挙による平和的な政権交代の歴史が始まって100周年を記念して「民主主義広場」と命名されている。背景の黄色い建物は1948年革命と現代に続く第二共和制の象徴といえる現国立博物館
一方、野党第一党となり、大統領選でも第2位となったPLNのアルバロ・ラモス氏は、その温厚な人柄と、「伝統的野党の新しい世代」として一定の支持を集めました。ラモス氏は若干吃音を持っているため、それを揶揄する人も残念ながら散見されました。また、その喋り方では、対立が激化する外交をうまくやっていけないのではないかというような評価もみられました。

フェルナンデス氏が出演を拒否したため野党候補のみで行われた公開テレビ討論会に出演するラモス氏
大統領選で3位となったクラウディア・ドブレス氏は、カルロス・アルバラード元大統領の夫人としての圧倒的な知名度と、建築士・都市計画士としての知性的イメージを活かして選挙終盤に急激に追い上げ、最終世論調査ではドブレス氏がフェルナンデス氏に次ぐ2位の支持率も記録しました。同調査ではフェルナンデス氏の支持率が40%を下回っており、女性同士の決選投票も期待されましたが、結果は惨敗でした。また、彼女の政党CACも国会議員選挙では獲得議席がわずか1と、8年間の与党を経験した前身である市民行動党(PAC)から続く勢力は非常に微小なものとなってしまいました。また、ドブレス候補は国会議員候補としてもダブル立候補しており、その1議席はドブレス氏が獲得する見込みとなっています。

自身の投票に来たクラウディア・ドブレス氏
大統領選では4位となったのが、国会議員選では7議席を獲得して野党第2党にまで上り詰めたFAのアリエル・ロブレス氏です。FAは明確な左派政党としての存在感を示し、国会議員選挙では一定の得票を得ましたが、大統領選では支持を得られませんでした。しかし、候補者同士の論戦でロブレス氏は主に与党のフェルナンデス氏に対して痛撃を喰らわせるなど、「投票はしないけど評価はする」といった市民も多くいました。たとえば、公開テレビ討論会においてロブレス氏はフェルナンデス氏に対して、こう質問しました。
「もし<14歳の少女と性的関係を持つことは、男性として普通のことだ>という人がいたら、あなたはその人のことをどう思いますか?」
それに対し、フェルナンデス氏はオーバーな感情表現を交えて、「女性として、娘として、母として、妻として、とんでもない」と返したのですが、ロブレス氏はそれに対して「これはあなたの政党がアラフエラ州の国会議員候補として比例名簿1位に登録されている男の言葉ですよ」と、その人物の写真を掲げて反撃したのです。これにはフェルナンデス氏もたまらず、「私はそういうことを話すためにこの討論会に来たのではありません」と逃げるしかありませんでした。ちなみにその人物は弁護士であり、14歳〜15歳の未成年の少女3人と性的関係を持った罪で起訴された男性の弁護に際してそう述べている記録が残っています。残念ながらその人物は当選したわけですが、それもそのような法に逸脱するような言論を発信する人物の免責を得るために候補者にしたのではないかという噂すら公然と固られていました。

サンホセ市内中心部の駐車場を借り切って行われたFAの集会
PLNと並んで「伝統的政党」と呼ばれるPUSCは、かろうじて1議席を獲得し、首の皮1枚つながった格好です。かつては2大政党の一角を担っていたPUSCの面影はもはやなく、中道右派という立ち位置が明確な右派であるPPSOの登場によってぼやけ、「古い、腐敗した政治体制の象徴」というイメージも払拭できず、ネガティブな要因を巻き返すだけの明確なメッセージ発信に欠いたまま、惨敗を喫することになりました。
◼️今後の見通し 〜「チャビスモ」の継続
フェルナンデス氏は、チャベス大統領の「マリオネット」と揶揄されています。
まず、チャベス現大統領はフェルナンデス氏当選後すぐに彼女を大統領府大臣(日本でいう官房長官に当たる職)に任命しました。大統領選当選者を就任前に入閣させるのは異例のことです。実際に大統領に就任する日(5月8日)までの期間に「二重権力」状態を生み出すことになるからです。その慣例に反するチャベス氏の行動は、「チャビスモ」(チャベス主義)を継続させる強いメッセージであると同時に、フェルナンデス氏が大統領に就任する前から行政府の権力を使って立法府に対して政策のコントロールに直接関与することで、フェルナンデス氏の政治基盤を強化しようとする意図が透けて見えます。
また、同じく慣例として、大統領はその職を辞した後に政治的な公職に就くことはないのですが、フェルナンデス氏は新内閣発足にあたってチャベス氏を大臣職に就けることを示唆しています。チャベス氏は2022年の大統領選において「非公式」な資金(裏金)を募り、利用したのではないかという疑惑をかけられており、検察から起訴されています。チャベス氏は大統領として免責特権を保有しており、司法府は国会に対して免責の免除をするよう勧告しました。ですが、それに必要な賛成数(国会議員の2/3=38以上)を得られず(35)、この件に関しては司法府における追及ができない状況になっています。チャベス氏をフェルナンデス政権の下で公職に就けるということは、大臣としてさらに免責期間を延ばすことにつながり、疑惑の追及を求める野党やメディアなどから厳しい批判を浴びています。
さらには、チャベス氏は政治的権力を継続的に保持し、可能なら憲法を変えて大統領としての再戦を企んでいると言われており、「継続する権力は腐敗する」という歴史的教訓をひっくり返してでも権力にしがみつく姿勢を隠していません。チャベス氏を改革の旗手とみなす一定の民衆は、継続的権力の是非よりも旧体制からの打破を望んでおり、「元大統領」の去就に関する政治的伝統が崩れる可能性があります。メディアや野党、一部市民はそれを強く非難していますが、チャベス氏から政治的権力を奪う現実的な手段がないため、有効な対抗策を打ち出せずにいます。
フェルナンデス氏は、投票日深夜に、支持者たちが集まった集会で、「第二共和制の終焉と第三共和制の始まり」を宣言しました。これは、チャベス政権の姿勢を継承して、彼らがいう「旧体制」を解体し、「新しい国の形」を作るのだという意思表示です。しかしながら、「第二共和制」とは1948年〜49年のホセ・フィゲーレス・フェレールが主導する革命によって構築された体制であり、三権分立から選挙部門を独立させた四権分立、教育・福祉に対する手厚い公的サービス、会計検査院による厳しく非常に細かい行政行為のチェック、1989年に創設された「第四法廷」(憲法小法廷)による立法府・行政府に対する違憲審査などを含みます。これらを解体するのは事実上不可能と考えられており、フェルナンデス氏の主張する「第三共和制」とは具体的に一体何を指すのか、まったく判然としていません。はっきりしていることは、行政府に権力を集中させ、他の権力を弱体化させるというチャベス時代からの一貫した方針です。これは当然腐敗を助長するものであり、チェック&バランスという近代国家のあり方への挑戦ともなり得ます。
実は、PPSOは選挙期間を通して、国会議員の当選者数の目標値を「40」に掲げていました。これは、定数57議席のうち2/3にあたる38人以上の国会議員の賛成によって憲法を変えられるからです。結果は31議席と、法案を通すのに必要な過半数は制したものの、目標としていた「絶対的マジョリティ」には届きませんでした。野党サイドが最も胸を撫で下ろしたのがこの数字でもありました。もしPPSOが38議席以上確保していたら、大きな憲法の改変が待ち受けていたことは間違いありません。もちろんその中には、大統領の連続再選を認めるなど、チャベス氏の政治的権力の延命を許容するような変革も含まれています。PLNとFAは、PPSOが主導する憲法改定の提案には乗らないことを早々と宣言し、CACのドブレス氏もPLNと国会内で共闘することが報じられています。
総じて、この4年間は、立法の範囲内で可能な改変が大幅に起きる一方で、国の骨格となる憲法に関しては大幅な改変は起きにくいことが予測されます。とはいえ、与党は最低でも2期8年以上続かず、選挙による政権交代が頻繁に行われながらも、平和・自由・民主主義・人権・環境といった価値観を制度に反映させ続ける姿勢は一貫し続けてきた現代コスタリカ政治が、大きな転換点を迎える可能性があります。今後4年間のコスタリカ政治は波乱含みの展開が予想され、注目必至です。



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