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隠れた世界遺産、ラ・アミスター国際公園の秘境で珍獣・バクのくしゃみを聞く

 コスタリカには4ヶ所の世界遺産があります。

 世界遺産好きの日本人でも、コスタリカのことはあまり知らないことでしょう。

 その中でも最大の面積を誇るのが、パナマとの国境にあるラ・アミスター国際公園(Parque Internacional La Amistad)。

 「ラ」は定冠詞(英語における「the」)、「アミスター」は「友情」という意味です。

 では何が友情なのかというと、それは「国際公園」となっている名称から導き出せます。

 この国立自然保護区は、「国立公園」ではなく「国際公園」なのです。

 つまり、隣国パナマにも同じ名前の国立自然保護区が連続して存在する、国境を超えてひとまとまりになった自然保護区になっているのです。

 コスタリカと同じく軍隊を廃止したパナマとの国境には、軍事的いさかいが起こることがありません。そのかわり、自然でつながっているというわけです。世界遺産登録も、コスタリカとパナマ両方の領土にまたがっています。


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©️Google Maps

 この地図の真ん中あたりを縦に走る線が国境です。

 左側がコスタリカ、右側がパナマ。

 さて、ここは世界自然遺産なのですが、特徴としては、低地の熱帯雨林から標高1500m前後の熱帯雲霧林、さらには標高3000mを超える亜寒帯に近い気候帯まで、多様なエコシステムが一ヶ所に集まっていることです。そのため、生態系も非常に複雑かつ多岐に渡り、固有種が極めて多い地域にもなっています。


 8月25日から26日にかけて、私も初めて訪れました。

 広大なこの公園には入園口がいくつかあるのですが、私は比較的アクセスしやすいというセロ・ピティエール観光センターから入りました。

 公園の敷地の境界線にある道を登っていくと、いきなりハヤブサが目の前に現れました!


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 残念なことに、この時は一眼レフカメラを持って行っていなかったので、慌ててスマホのカメラで撮影しましたが、それでもこれだけ映るほど近くで見ることができました。早くも驚きです。まだ入園もしていないのに!


 そして、ビジターセンターに到着。


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 ここは標高1500mほどで、雲霧林のまっただ中です。写真を見ていただくと、雲の中に入っていることがわかると思います。

 入り口では、地中に半分埋まった岩に描かれたバクの親子が出迎えてくれます。これは、このビジターセンターの清掃員の女性が半年ほど前に描いたものだそうです。上手い!


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 ビジターセンターには、レンジャーのロニーが一人で仕事をしていました。

「ここに日本人は来たことある?」と尋ねてみたら、「この場所に配属されてからまだ日が浅いからわからないけど、僕が知る限りではラ・アミスターに来たのはJICAくらいかな」だそう。

 この国際公園を訪れるために逗留したホテルの女将・ジャミさんも、「日本人宿泊客はこれまで多分1人しかいなかった」といいます。世界遺産好きの日本人でもほぼ誰も来ないここは、絶好の秘境と言ってもいいでしょう。


 ジャミさんのガイドで、早速公園内に入っていきます。まずはピティエール滝を目指して、小一時間のトレイルウォーク。


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 このあたりは、50年前までは牧場や農園だった二次林で、まだ成長しきっていない木が密集し、下草もあちこちに残っています。それでも自然の豊かさはそれなりに戻ってきており、多種多様な生物が確認できます。同じ熱帯雲霧林でも、観光客がたくさん押し寄せているモンテベルデ近辺の自然保護区より、落ち着いて周囲を観察できる秘境感が、ラ・アミスターのいいところです。

 下の写真は、高さ10mにも及ぶ巨大な古代シダ。まるでジュラシック・パークの世界に入り込んだようです。


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 足元を見ると、アグアカティージョ(リトル・アボカド)の実が落ちていました。3つ並びのひとつがなくなっています。ケツァールが食べて落としたのでしょうか。そう、この植物があるということは、ケツァールがこの辺に住んでいるということです。実際、ジャミさんの宿「オスペダーヘ・セロ・ピティエール」でもアグアカティージョを植林していて、ケツァールが飛んできたことがあるそうです。


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 樹齢500年は経つというオークの木。その硬さから、木材用に多くが伐採されてしまいました。その中でも、コロンブスが到達する前から生き残っているこの木は、山深い雲霧林の生き証人です。


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 歩き始めて1時間、ようやく目的地に到着しました。ピティエール滝です。



 太平洋とカリブ海に挟まれた幅およそ100km程度の陸地に、標高3800mまである急峻な地形と、その山々を取り囲む雲や霧による降水のため、この地域には大小多くの滝があります。ピティエール滝もそのひとつです。


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 ここから帰り道は約30分。なだらかな登山道を下って、レンジャーステーションに戻りました。

 そこから宿までは徒歩10分強。

 公園に入る前に宿にチェックインしたのですが、到着してすぐジャミさんがサワークリームつきプラタノとコーヒーで歓迎してくれました。こういう気遣いがすごく嬉しいし、美味しいのです。


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 部屋は全室独立方のコテージ。雲霧林の中にあるのがわかりますよね。


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 部屋の中も小綺麗で清潔感がありました。


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 そしてシャワーはこれ。コスタリカといえばこのシャワーです。


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 水が流れると通電して発熱し、その部分を水が通ることでお湯になります。ただしこれを使いこなすにはコツが必要。発熱量は一定なので、水を多く出し過ぎるとぬるくなりすぎて風邪を引きます。かといって水量を絞ると、今度は通電しなくなって水しか出てきません。微妙な水量をミリ単位で調節して、適度な湯温と湯量を探り当てながら浴びるのが、コスタリカのシャワーです。久しぶりにコスタリカに帰ってきたという感じがしました。


 翌日、同じレンジャーステーションから入園し、今度は別のトレイルへ。往復3時間のコースです。この日の朝は、昨日とはうってかわって見事な晴天。気持ちよく歩き始めました。


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 途中、これまで雲霧林の中でも見たことのない生物種をたくさん見かけました。たとえば、この羽が透けた蝶。


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 見たことのない種類の青色が目を惹く昆虫。


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 見たこともないカエルたち。


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 生物観察を楽しみながら、2時間の山行を経て、本日の目的地に到着。カナスタ川です。



 ここで私は痛恨のミスを犯します。

 一眼レフカメラのキャップを川に落としてしまったのです。

 あっという間に流され、どこにいったかわからなくなりました。

 私は、レンズキャップをなくしたことより、この公園内をプラスチックで汚染してしまったことに、強い罪悪感を持ってしまいました。

 とはいっても取り返しがつかないので、気持ちを切り替え、清流で顔を洗ってさっぱりして、来た道を戻ります。

 往路では気づかなかったのですが、トレイルにトラップカメラが仕掛けてあります。

 ここではバクやジャガーなどの超希少生物が捉えられています。


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 バクもジャガーも、滅多に目撃することはできません。

 しかし、私は今回、とんでもなく幸運に恵まれました。

 そう、バクがいたのです!

 はっきりと全体を目撃はできなかったのですが、わずか5mほど先の藪が突然盛り上がったかと思うと、「ぶわっくしょん!!!」という大きなくしゃみをしたのです。

 近づいてみたい誘惑に駆られましたが、トレイルから外れるため、その方向に足を踏み入れることはやめました。

 ジャガーを目撃することは、私は諦めています。中米の生態系の頂点に君臨する肉食獣ですから、地元の人ですら見たことがない人ばかりというくらい、目撃は困難を極めるからです。でも、バクはいつか見たいと思ってきました。実際、コルコバード国立公園などに行けば、割といい確率で見ることができます。が、コルコバードもラ・アミスターに負けず劣らずのアクセスが悪い場所で、私もこれまで人生で1回しか行ったことがありません。

 バク自体は、海岸付近から標高3000mまで、幅広いエコシステムの中で生息しています。「なまけものの通りみち」の中でも、足跡を確認していますので、いつかチャンスはあると思っていました。しかしまさかここで出会うとは…。感動しました。


 こうして、一泊二日のラ・アミスター国際公園訪問は幕を閉じました。

 アクセスの難しさから訪問者が少ないため、思う存分熱帯雲霧林を楽しめる場所です。

 荒らされる前に、こっそり訪問することをお勧めします。

 
 
 

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