top of page
執筆者の写真コスタリカ社会科学研究所

中米和平の新事実

更新日:2023年5月12日

 中米和平といえば、コスタリカの大統領(当時)オスカル・アリアス=サンチェスが主導した、1987年の「中米和平合意」のことを指すことが多いでしょう。ちょっと詳しい方なら、それに先立つ和平努力として、コンタドーラ・グループの活動をご存知かもしれません。

 その裏に隠された歴史として、弊所代表理事足立力也はその著書「丸腰国家」の中で、1948年に軍隊廃止を宣言したホセ・フィゲーレス=フェレールの妻であり、元大統領夫人でもあるカレン・オルセン=デ=フィゲーレスによる女性外交「ファーストレディ外交」の存在を明らかにし、その重要性と意義を明らかにしました。

 しかしここにきて、新たな「隠された歴史」が明らかになってきました。コンタドーラ・グループの活動より先に、和平への行動を起こしたコスタリカ人たちがいたのです。実はその行動が、コンタドーラ・グループの和平工作の下地となり、アリアスによる和平合意に至る伏線となっていました。それが、ホセ=ロベルト・ロドリゲス=ケサーダ国会議員(当時)をリーダーとする「立法府外交」です。



 以下、判明した事実を簡単に列挙していきます。


・1983年3月22日、コスタリカの立法府(国会)において、「中米の平和に関する提案」が全会一致で可決される

・同提案の内容に従って、国会内の特別委員会として「中米平和推進委員会」が設立される

・委員長として、同提案の起案者であるホセ=ロベルト・ロドリゲス=ケサーダ議員(PUSC=社会キリスト教連合党)が就任

・ロドリゲス氏は就任直後、米国レーガン大統領に信書を送付。ニカラグア内戦への介入を止め、ソ連も含めた東西冷戦の枠組みにおける新植民地主義を批判

・ラテンアメリカ各国立法府(議会)へ、同提案を送付

・ニカラグアのサンディニスタ政権側及びコントラ側の紛争当事者代表たちをコスタリカ国会に招致、聞き取り調査を行う

・エルサルバドルのFMLN代表たちをコスタリカ国会に承知、聞き取り調査を行う

・招聘を受けた中米平和推進委員会の委員たちがニカラグア・リバス市を訪れ、ニカラグア国会議員団と二国間議員会合を開催。

・同会合にはホセ・フィゲーレスも同席。

・中米平和推進委員会の動きに合わせ、コロンビア・ベネズエラ・メキシコ・パナマ4ヶ国が中米各国の首脳・外相と接触。のちのコンタドーラ・グループの和平工作へとつながる


 これらの事実から導き出されるポイントは以下の通りです。


・平和提案の枠組みはキリスト教的観念から語られ始める。この世界観は、中米各国の紛争当事者への働きかけや米国大統領への信書の中にも明確に現れており、平和/和平を追求するにあたってキリスト教的平和観を土台にすることで、各アクターの「共通の土台」を作ろうとしていたことがわかる。同時に、バチカンを意識することで、和平仲介への意欲も示していると考えられる。

・外交は通常、行政府(大統領・内閣・外務省/外務大臣等)の専権事項である。今回判明した動きは、いわば「立法府外交」と呼ぶべきものであり、コスタリカ議会内の一特別委員会が中心となって各国の議会や紛争当事者に働きかけている。これにより、行政府の方針に必ずしも縛られない、柔軟な対応が可能となった。たとえば、ニカラグアに対しては、サンディニスタにもコントラにも等距離で接触が可能だったのは、中米平和推進委員会が、野党議員が主導した超党派による構成だったことが大きいのではないか。

・コンタドーラ・グループによる和平仲介は結果として成功しなかったが、その延長線上にアリアス政権の中米和平交渉が置かれることは間違いない。そのプロローグとして、中米平和推進委員会による立法府平和外交があったと考えてよいのではないか。冷戦構造の中に落とし込まれた中米各国の内戦とその和平という議題を、中米の当事者自身に取り戻すための第一歩として、同委員会は中米各国の紛争当事者、議会、大統領や外相などのキーアクターに接触した。それをトレースするように、のちにコンタドーラ・グループとなる4ヶ国も各キーアクターと接触している。さらには、コンタドーラ・グループの仲介が頓挫した後に始まるアリアス政権の和平交渉は、中米という枠組みを強化した形で行われた。その雛形とまではいかないが、先鞭をつけたのが同委員会の活動ということになる。つまり、

中米平和推進委員会→コンタドーラ・グループ→アリアス政権

というふうに、中米紛争和平仲介役のメインアクターが変遷していったと言っていいのではないだろうか。その意味で、同委員会の意義の大きさはの再発見には、歴史的に重要な意味を持つだろう。

・フィゲーレスのニカラグア訪問は、興味深い仮説を引き出す。後にその妻カレン・オルセンは、筆者(足立)がその著書『丸腰国家』で著したように、'86〜'87の中米和平交渉の隠れたキーパーソンとなっている。ということは、フィゲーレス家の中で中米紛争和平における何らかの「家庭内引き継ぎ」があった可能性がある。もはや確認することは困難となってしまったが、興味深い仮説ではないか。


 4月1日発行の弊所機関紙Noticia de Tiquiciaに、これらの事実が明らかになった経緯と分析の概要を掲載しています。ご覧になりたい方はお送りいたしますので、「お問合せ」欄からご連絡ください。


 今回の新事実は、ピース・ワーカーの井上八香氏によって昨年発見されました。彼女のコーディネートのもと、今年3月10日、協働してロドリゲス氏にオンライン・インタビューを行い、上記のような詳細が少しずつわかってきました。井上八香氏にはあらためて感謝申し上げます。

 また、そのインタビューと付随する資料に関しては、まだまだ分析中です。新たな事実や分析が判明し次第、随時お伝えしていきます。

閲覧数:28回0件のコメント

Comments


bottom of page